大塚家具にみる「家族問題」
大塚家具の株主総会が終わり、長女久美子さんが61%の株主支持を得ました。
大塚家具のこの度の「お家騒動」は、経営でも経済でもなく、さらにいえば商売ですらないところで起こっていると感じられます。消費者も株主も、メディアやマーケットですら「お家騒動」と感じるほどに「家族問題」なんですね。
毎日新聞、朝日新聞はじめ、アメリカ・ブルームバーグニュース等の取材を受け、私が伝えたことの概要をここに備忘録として書いておきます。
大塚家具の根底にある家族問題とは、「家族マネジメント」の問題であり、「男女問題」でもあります。
ひとつには、
親が子をどのように育てるか。そもそも日本の家族システムにおいて親はどのように機能しているか説明しましょう。家族にはそれぞれ役割があります。
父性的役割(主に父親)は、外部の敵や攻撃から家族を守り、子どもに教育を施す役割があります。思想的な教育あるいは子が進学する学校選択等にもみられる学校教育でもあります。
母性的役割(主に母親)は、家庭内を守り、子どもに躾(しつけ)を施す役割があります。子どもが幼い頃から生活習慣を身に付けさせ、コミュニケーションの基礎を作ります。道徳的な教育と表現してもいい。
大塚家具の場合、長男より長女に対して父親は積極的に教育を施しており、彼女は父親の望み通りに育っています。しっかり勉強し自分の頭で考え自己主張できる大人に育っています。それらを確認したうえで父親は長女に経営権を譲ったのではないでしょうか。
ところが、実権を握った長女は、父親を否定し排除しようとした。それが経営方針の違いであっても、人間関係あるいは性格的に異なる面でもじつは同じなのですがーーー相手の理解納得を促すためには伝える力、受け入れてもらうためのコミュニケーション能力が必要となります。いくら正論であっても単なる自己主張ではなく、相手に理解し納得してもらうために必要な伝える力は、母性的役割を担う者から学んできているはずですが、残念ながら大塚家具の場合はじゅうぶんに機能していなかったのではないかと思われます。
これは大きく言えば、戦後日本において多くの家族が抱えてきた問題でもあります。
戦中派の親が、自分は受けることができなかった高い教育をわが子にはと望んで与え、期待し、期待通りに育って子どもが自分より知識情報が劣ると親を判断し、親を下に見る。これは、家庭教育がじゅうぶんではないために起こります。なかでも親や年長者を敬うといった道徳心が育っていないからではないでしょうか。
わが家は大丈夫だろうかと不安に思う親や祖父母が多くあるため、大塚家具の「お家騒動」が世間の耳目を集めるのも当然のことですね。
某記者より、「大塚家具の父親、母親、長男、長女はじめ家族の関係は修復できるでしょうか」と問われました。
本当の意味での修復はとても難しいと感じます。
それは、たとえば、親が亡くなったとき兄弟間での遺産相続争いを例に想像していただければ理解しやすかもしれません。遺産相続を争わない兄弟姉妹もありますが、ひとたび相続争いとなったときは、調停、裁判と進むこともあり、ジャッジを仰いで決着したからといって兄弟姉妹間の関係がよくなることはありません。
株主総会で負けた父親が、法人(大塚家具)の未来ではなく、個人として家族の未来を守るために一切の権利を放棄し保有している株も新社長に渡して本当の意味で全権譲渡できれば、家族関係は修復できる可能性はあります。
が、某記者によると、父親側は株主総会が開かれる前に、「もしも負けたら、来年もその次も株主提案を続ける。絶対に引かない」とおっしゃったそうですので、修復困難であり前途多難な家族といえます。
大塚家具のもうひとつの問題は、「男女問題」です。
これは男女関係という意味ではなく、後継者に男性が選ばれるか女性が選ばれるかということの問題です。
仮に長男が後継者として選ばれた場合、古参の社員等は(長男が少々つたない意見を述べたとしても)まだ経験が浅いからと大きな目で見守り、サポートするでしょう。多くの企業がそのようにしてきました。
ところが女性が選ばれた場合は異なります。これは大塚家具にかぎらずですが、
女性が後継者あるいは役員に選ばれた場合は、「女性なのに選ばれたからには実力者のはずだ」との前提でまわりは見て、すぐに結果を求めがちです。少々つたない意見を述べたときには、「女だからと甘えている」と言われかねず、また同族ではない場合は「女の武器を使って上がってきたのだろう」と下衆な揶揄すらされかねません。私は、自民党片山さつき議員が設けた「女性活躍推進委員会」委員でもありますが、その視点からも女性が指導的役割の女性の数を増やす政府目標は厳しい面があると言わざるをえません。
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特集ワイド:大塚家具「お家騒動」を読む 根底に親子の心情のもつれか 承継時に企業理念共有されず?(毎日新聞)
「日本一有名な父娘ゲンカ」。ある週刊誌はそんな見出しを掲げた。家具販売大手の「大塚家具」(本社・東京都江東区)がお家騒動に揺れている。創業者で会長の大塚勝久氏(71)と、長女で社長の久美子氏(47)が経営路線などを巡り互いの解任案を出す骨肉の争いを演じる。親子とは、同族企業とは−−。いくつかのキーワードから内紛を読み解いた。【江畑佳明】
◇久美子氏「創業者の庇護から離れる」…求められる具体的戦略
◇勝久氏「娘は営業経験が少ない」…一度は社長を譲ったのだが
勝久氏と久美子氏の対立点をおさらいするには、先月25日に父が、翌26日に娘が開いた記者会見での言葉を挙げるのが早道だろう。
父いわく「高いと言われながらよい物を販売し、ここまできた」「ニトリさんとかイケアさんを意識したら間違います」「(娘は)営業経験が少ない」。とどめの一言が、メディアの見出しにもなった「悪い子どもをつくった」である。
一方の久美子氏は「高級家具だけを売るのではない。気軽に立ち寄ってもらう店舗づくりをする」「創業者の庇護(ひご)から離れねばならない限界地点が来る。今がぎりぎりのタイミング」と訴えた。
勝久氏は来店客に住所などの記入を求め、従業員が店内を案内して商品を説明する手法で業績を伸ばし、現在の「大塚ブランド」を確立した。しかし、2009年に社長に就任した久美子氏は他社との競争が激しくなる中、幅広い客層を呼び込む戦略を提唱。それが勝久会長には、自身の手法の否定と受け止められている模様だ。
互いの「追い落とし」も激化している。久美子社長は勝久会長の解任案を27日実施の株主総会に出す予定。一方、勝久会長は自らの取締役復帰と久美子社長の解任案を提出する。現在、双方が独自の取締役選任に向け株主に対し「委任状争奪戦」という多数派工作を繰り広げている。他のきょうだいも2派に分かれ予断を許さない状況だ。
「これまでは父から息子や娘婿への事業継承が多かったが、後継者不足などの理由から、娘が後を継ぐケースも珍しくなくなりました」。ジャーナリストの白河桃子さんは言う。父から事業を引き継いだ女性14人を取材した「老舗復活『跡取り娘』のブランド再生物語」(日本経済新聞出版社)の著書がある。
「私が取材した範囲では、跡取り息子が父親をライバル視し、先代のスタッフも目障りに思いがちなのに対し、跡取り娘たちは女性らしくコミュニケーションや社内調整に気を配り、協調型のリーダーシップをとる人が多いようです。ただし……」と白河さんが続ける。「それは父が『お前に任せた』と全権移譲していることが前提。今回のようにいったん退いた父が復権しようとすると、対立が顕著になることもあります」
「この対立の根底には、子を思う親の心情と、その期待に応えてきた子の心情のもつれが横たわっていると思います」。家族問題コンサルタントの池内ひろ美さんは、今回の騒動をそう分析する。「対立するまでは、父から見れば理想的で優秀な娘だった。ところが、望み通りに育ってくれた、まさにその結果として、たたき上げの父と経営方針が合わなくなった。注いだ愛情があだになるという皮肉な展開が、和解を難しくしている面もあるのではないでしょうか」
久美子氏は5人きょうだいの第1子で長女。「家具屋の娘」なので「かぐや姫」と呼ばれ、才媛として知られた。一橋大経済学部卒業後、富士銀行(現みずほ銀行)へ総合職として入行。当時、同行にいた関係者は「『大塚家具のお嬢さんは優秀だ』との評判を耳にした」と振り返る。
池内さんは言う。「親が一生懸命働いて子に高い教育を施しながら、時代や環境が異なるがゆえに対立するというのは、戦後日本の典型的な物語でもある。特に戦前派の親と団塊世代の子の間で顕著ですが、大塚家具の父娘にもそれが表れている。だからこそ世間の人々は自分の親子関係と重ね、人ごととは思えないのでしょう」
いわゆる「同族経営企業」(ファミリービジネス)においては、過去にもさまざまな内紛があった。最近では布製カバンメーカー「一澤帆布工業」(京都市)の遺産相続争いや、菓子の老舗「赤福」(三重県伊勢市)の経営方針を巡る内紛が記憶に新しい。
同族経営がもめるのは、どんな場合なのか。
「企業がどうあるべきで何を目指すか、といった理念や価値観が、後継者に承継されているかが大きなポイントです。これなくして新たな経営ビジョンや戦略を打ち出しても、先代との間に摩擦が生じるのは必至です」。「ファミリービジネス 最良の法則」の訳書がある日本大学大学院の階戸(しなと)照雄教授(ファミリー企業経営論)は指摘する。
そのうえで、大塚家具については「記者会見などを見ている限りでは、事業承継の段階で、父娘の間で価値観のすり合わせができていたか疑問を感じます」。
階戸教授によると、同族経営とは大まかに言って(1)創業者の一族が経営に参画している(2)一族が株主としてある程度の株式を保有している−−と定義される。日本の企業の95%以上は同族経営だという。トップダウンによる意思決定の早さや長期的視点の経営ができる点がメリットとして挙げられる一方、トップの独断を阻止しづらいなどのデメリットもある。
久美子氏は先月、新たな経営戦略などを盛り込んだ「中期経営計画」を発表した。会員制の見直しなどビジネスモデルの再構築を最優先に掲げる。
300人以上の経営者を取材した経済ジャーナリストの松崎隆司さんは、久美子氏が販売経費の圧縮などコストカットを断行し黒字化を進めるなどの努力をしてきたと認めながらも、こう語る。「計画では『気軽に入れる店舗』などを提案していますが、ではどんな客層にどんな方法で販売するかといった具体的戦略が見えてこないのです」
一方で、勝久氏も社長時代に業績が悪化した経緯がある。
松崎さんは「株主や顧客が求めるのは、これまで培った企業価値や伝統という根っこの部分を生かしながら、時代の一歩先を見据えたビジョンではないでしょうか。どちらが経営権を握っても、消費者のニーズを的確にとらえた戦略が求められます」と話す。
同社は昨年4月の消費増税の影響もあり、売り上げの低迷が続く。「今回の騒動でブランド価値は間違いなく低下した」と松崎さん。27日の株主総会がどんな結果になるにせよ、消費者の信頼回復への道は険しそうだ。
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<大塚家具>父と娘の対決 久美子社長が勝利 61%賛成
毎日新聞 3月27日(金)13時14分配信
◇勝久会長の株主提案は否決される
経営方針をめぐって会長の父と社長の娘が対立している大塚家具の株主総会が27日、東京都内で開かれた。会社側が提出した社長の大塚久美子氏(47)ら10人の取締役の選任を求める議案が賛成多数で可決された。一方、久美子社長の父の大塚勝久会長(71)らを取締役に選任する株主提案は否決され、勝久氏は会長を退いた。委任状争奪戦に発展した父娘の対立は、久美子氏に軍配があがった。
【大塚家具「お家騒動」を読む】父と娘「追い落とし」激化 根底にあるのは…
会社側提案には出席株主の約61%が賛成に回った。約10%の議決権を持つ米投資ファンド、ブランデス・インベストメント・パートナーズや、約10%を保有する大塚家の資産管理会社、ききょう企画から支持を得た。議決権助言大手の米ISSも、会社側提案に賛成推奨した。
一方、勝久氏は約18%を保有する筆頭株主。約3%を保有するフランスベッドホールディングスや家具業界団体から支持表明を受けたが、及ばなかった。
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