谷崎潤一郎『細雪』観劇
お招きいただいて『細雪』観劇しました。
谷崎潤一郎の長編小説『細雪』は、1950年から3回も映画化されておりテレビドラマは1957年から5回も放送されていますが、舞台は1966年の初演から通算1500回を超えています。
四姉妹の物語はご存じのことと思いますが、子供の頃に読んだ本作と、すっかり大人になった今観る舞台とでは受けとめ方が違うのだなあと感じ、共感する部分はもちろん、昭和恐慌から没落する名家や勘当される息子は、リーマンショックを経た今の時代と重なるかもしれません。
幕が上がるとともに、劇場のあちこちからため息が聞こえます。
亡父の法事にと新調した四姉妹が着る和服、色無地の美しいこと!
紅色の桜からピンクの桜まで、四姉妹がグラデーションを成す色無地をそれぞれ身につけて物語ははじまります。
長女は(いつの時代も)家のことを考え妹たちを戒め励ましコントロールします。長女の誇りは徳川の時代から続く木綿問屋の看板を守ること。
二女(細雪では谷崎潤一郎の妻がモデル)は、しっかり者で長女と妹たちの間を整えて心を尽くし、大和撫子の鏡のような女性です。
夢みる三女は見合いを断っているうちに30歳になる。二十代前半で女性が結婚していた当時の30歳は今でいうアラフォーの感覚です。それでも「いつか白馬に乗った王子様が私を迎えに来てくれるわ」と夢みます。
奔放な四女は人形作家となり(名家のお嬢様が仕事場を持つこと自体が当時は非常識なことですが)、放蕩息子と駆け落ちし新聞報道され、その後は二股をかけたカメラマンが死んだ後、いつの間にか水商売の男と同棲をはじめる(名家のお嬢様が「丁稚上がりのカメラマン」や「どこの馬の骨とも知れない水商売の男」と結婚を考えるのも当時は非常識なことです)。
物語の展開に目を奪われつつ(ちょっと難を言えばセリフを聞き取りにくい舞台の造りのため)集中して目と耳を傾け続ける、長丁場です。三幕構成で30分間の幕間に準備されたお弁当を座席でいただきます。歌舞伎みたいです。
幕が上がるとともに着替える美しい和装、場面が変わるとともに新しい着物を見ることができます、その連続に目を奪われます。
四姉妹がそれぞれ7〜8回着替え、帯を替え、さらさら歩きます。しなりと座ります。しゅっと立ち上がります。
美しい。
阪神間(関西)モダニズムは、建物や庭の造作と衣装でふんだんに表現されていますが、それだけでなく姉妹の呼び方にも現れます。
長女は「御寮人さん(ごりょんさん)」、二女は「中姉ちゃん(なかあんちゃん)」、三女「雪姉ちゃん(きあんちゃん)」、四女「こいさん」。これは、いつも私が申し上げています一番年齢が下の人を基準とした呼称であるのは現在も同じです。日本は幼き者、劣る者に目線を合わせる優しい国であるということですね。
四姉妹が並び立つ圧巻のエンディングで長女が空を仰いで語ります。
「あでやかな紅枝垂れの桜、どんな世の中になってもあの花だけは、咲き続けますのやろな」
そこには、戦争に向かい大きく時代が変わろうとしていることへの不安だけでなく希望もあり、また、何があっても変わらず美しくあるという女性の心があります。
観劇し、あでやかなエンディングにこころ奪われながら私は、映画『日本の一番長い日』で鈴木貫太郎総理が語ったセリフを思い出していました。
「本土決戦となれば、桜はもう咲かないな」
男性の視点と女性の視点は異なります。
だからこそ、互いのよいところを合わせていくことができれば有難いことですね。
「細雪」明治座
公演:2017年3月4日〜4月2日
ーーー舞台を見終え、明治座から甘酒通りを歩いた先にある「谷崎潤一郎生誕の地」も訪ねました。現在はビルが建っています。
明治座2Fフロアでは「明治座140年展」が開かれています.

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