ひずんだ家族、私はあきらめない
ひずんだ家族、私はあきらめない 福島・楢葉
あれから家族はふつうではなくなり、私はそれに慣れてしまった。
両親の間の溝が決定的に深まったのは、震災の年の夏。暑い日だった。
4カ所目の避難先だった福島県郡山市のアパートで、泣き叫ぶ母(49)が父(51)をなじった。
「大丈夫って言ったのに、大丈夫じゃなかったじゃない」
父は言い返さなかった。
何でこんなことになったんだろう。高校1年だった矢代悠(はるか)さん(18)はトイレにこもり、声が漏れないように泣いた。
父は東京電力社員。自宅は福島第一原発の20キロ圏内、福島県楢葉町にあった。一家は原発事故で、震災の翌日から避難を迫られた。車で寝泊まりもした。
父は事故の収束作業に呼び戻された。避難先の家に戻るのは月8日程度。細い体がさらに痩せ、ほおがこけた。母は知り合いから口々に「どう責任を取るの」「被害者面して」と言われ、携帯電話の電話帳から約30人の名前を消した。
福島県いわき市に避難した祖母までが「おめえの旦那が東電のせいで、どれだけ世間体を悪くしてるか」と言った。母は泣いた。若いころ、東電の子会社に勤め、「安定している東電の人と結婚しなさい」という祖母の言葉通りの選択をしたのに。
両親は会話を交わさなくなった。父からメールを受け取り、内容を母に伝える役割を悠さんが担った。
*
テレビニュースが「脱原発デモ」を映し出す。
東京の電気をつくる原発がどこにあるかも知らなかったくせに。お父さんが頑張っていることは、誰も知ろうとしないのに。無責任じゃない?
悠さんは父が責められているように感じて、腹が立った。でも、「父のことを話せば、軽蔑した目で見られるかも」と心配する自分もいた。高校でも父のことを深くは話せなかった。
高2の夏。被災地の高校生300人を招くNPOや企業の企画で、米国に短期留学した。他の高校生や米国の学生とディスカッションを重ねるうち、度胸がついてくるのがわかった。
帰国後、被災地の高校生が東北の課題を話し合う東京の集まりにも参加した。母を津波で失った宮城県の高校生の体験を聞き、決心した。「自分も言わなきゃ」。緊張で体が震えたけれど、みな泣きながら聞いてくれた。
被災したからこそ得た機会が自分を強くしていた。
「震災で減った観光客を呼び戻そう」。留学仲間の高校生が企画したいわき市を案内するバスツアーにも、スタッフとして加わった。悠さんは高2の春からいわき市に移り住んでいた。
旅行会社の協力で昨年5月に始まったツアーは、第3弾まで実現した。悠さんは首都圏からの客に父が東電社員として収束作業に当たっていることを話した。そして、「私たちが楢葉町に住んでいたことを忘れないでください」と伝えた。
抱きしめてくれる人、「お父さんたちは英雄だ」と言ってくれる人がいた。震災後はめったに笑わず、口数も減った父。その父が口に出せないことを、代わりに少しだけ言えた気がした。
*
母は今も祖母を許すことができない。「心穏やかになる日はない。私に実家はない」と言う。父は福島第一原発4号機の核燃料取り出しに当たり、週末だけ帰宅する生活が続く。父母がそろっても、視線が交わることはない。
悠さんは今月1日、高校を卒業した。4月から県内の大学で建築を学ぶ。「昔のように、家族でリビングに集まって仲良く話したい。でもどうすればいいのか、わからない」
ただ、一つ考えていることがある。
おばあちゃんに会いに行って話を聴こう。なぜお母さんにあんなことを言ったか、どんな気持ちなのか。家族の関係が変わるきっかけになるかもしれないから。今の私なら、向き合える自信がある。
(根岸拓朗)朝日新聞2014.3.8
(画像は卒業証書を受け取る矢代悠さん。福島県いわき市/撮影:小川智)
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